地図と拳 – 小川哲

2023年前半の直木賞受賞作。新宿紀伊國屋さんで平積みしてるのをみて、ジャケ買いというかタイトル買、ボリューム買いしました。

「地図と拳」のページ

日本が満洲国を作ってた時代のお話。満州を舞台設定にしてる小説に、なぜか惹かれてしまいます。外向き志向で、ゼロイチで都市・国を作る点が起業家ぽく響くからかもしれません。

満州系小説では、なんといっても浅田次郎先生の「蒼穹の昴」「中原の虹」がダントツに好き。タイトルからして、夢を描いたスペクタクル大作って感じがします。

「地図と拳」は、もっと理知的な、いま風な突っ込みどころがないしっかりした小説なのかなと思いました。「拳」は暴力にも繋がりますが、もっと戦略的な暴力なのかな、なんていう。とにかく読む前からイメージが広がるタイトルです。

とにかく分厚い本ですが、たくさんある伏線を全て回収して終わるので、とても気持ちよかった。とくに青龍島の話など。。

作者の小川哲さんも、こんな風に語ってます。

小川 楽しかったですね。とくに後半、全部のピースがカチッとハマって、「ああ、これ終わりに到着できる」ってわかってからは、めちゃくちゃ楽しかったのを覚えてます。こうやって、余すところなくピースを拾って終えられたのは、長編では初めてなので、その楽しさはあったかもしれない。

『地図と拳』刊行記念対談 小川 哲×新川帆立「地図とは何か。建築とは何か。そして、小説とは何か。」集英社文芸ステーション

また、インタビューを読んでいて、この「設計図=序章」に立ち返って書き進めたというプロセスが興味深った。

小川 まぁ、序章に全てを詰めたというよりは、書きながら何度も序章に立ち返ったという感じです。

『地図と拳』『コークスが燃えている』刊行記念対談 小川哲×櫻木みわ「わからなさに向き合いつつ書くということ」集英社文芸ステーション

「地図と拳」プロジェクトでは、「序章」がミッション・ビジョン・バリューだったのかと理解できて、この小説が読みやすかったのが腑に落ちました。

先日イノプロ3年生の授業「サタデーハッカソン w/福地組」で、小川弘純さん(株式会社カロリー代表取締役)が、大人数のプロジェクトを回すには、最初に「コンセプトコピー」をかっちり決めるのがとても重要だとおっしゃられてました。

プロジェクトメンバーには多様な人が集まってきます。初めて同士の人も多い。そこで、迷ったらみんなが立ち戻る言葉。言語化されたコンセプトが必要とおっしゃってました。

小川さんのインタビューを読んで、小説家って、起業論的には、なんだかブランディングマネージャーと同じ役割なのかと思いました。

最後に心に残ったある意味主人公「明男」のこんなセリフを引用しときます。

「建築とは時間です。建築は人間の過去を担保します」

「地図と拳」から

そういえば、少し前に読んだ明治神宮や日比谷公園を作った日本初の林学博士「本多清六」も出てきました。林学は100年先までを読んで植林する究極の計画性を求められます。

「地図と拳」「本多静六」、両方とも図書館にあります。